――夜8時今日は気分が優れないのでここで一時中断。
閉店まで働くメンバーの一人がやってきた。
そして極悪メガネマネージャーが連絡事項を言いに裏へ行き、数分後二人揃って出てくるがなにやら騒々しい。
またバイオハザード(※ゴキブリやクモの出現を意味する)でも発生したかと思ったが二人の会話を聞くとどうにも違和感がある。
気になって二人を目で追うとトイレの方へ向かうではないか。
そして二人揃って「臭い」と叫びながら必死の形相で駆け戻ってきた。
なんだ、異臭騒ぎかと見切りをつけておきつつ状況を伺ってみる。
「どうしたんですか?」
二人は揃って答えに窮したらしく、すぐには答えない。
「臭い」という以外に臭いことを説明する方法などありはしないのだからこの質問は性質が悪い事は自分でもわかっていた。
が、極悪メガネ朝月氏が不敵な笑みを浮かべて私にこう言うではないか。
「まぁついてきなされ」
もう一人のほうが「飛び散ってる」と言ったので少し気になって見に行くことにした
この日この時こそ自分の好奇心を恨めしく思ったことは無いだろう
トイレに突入する前、異臭が激しいと言うことなので息を止める。
チラッとみてすぐに出て行く気概である。
――が、それを見た瞬間、私はそんな計画など忘れてしまった。
飛び散っていたのだ。
辺り一面に
その瞬間に息を止めていたことも忘れた私は息苦しさの余り思いっきり空気を吸ってしまった
!?
ものすごい臭いだった。
学校や駅のトイレ、いや、下水が無い地域に現れる収集車がまさに収集している最中(※かなり臭います)よりも、否、それらと比べるのが馬鹿馬鹿しくなるほどのすさまじい臭いだ。
その場で卒倒してもおかしくなかったが意地で耐え、外に逃げた。
トイレの外へ出てもまだ臭ってくる異臭から逃れて店の外へ。
この時の一瞬で地獄と天国を一気に味わったように思う。
そう、私は地獄を見た。
あの惨状は地獄絵図そのものだった。
外で深呼吸し、冷静さを取り戻した私は先程の失敗を見極め、現場の状況確認をしに再度入っていった。
そう、さっきは一気に大量の空気を吸ったがために一瞬でノックアウトされたのだ。
今度は鼻に手を当てて少しずつ空気を吸えば多少はマシだろう。
早計だった
アレに耐えられる人間はそうはいないだろう。
あの臭気は人を殺傷する能力があるに違いない。
だが、さっきよりは状況確認もできたので収穫と思うことにして退散した。
しかし店の人間としてアレを放置しておいては、この店は変な店になってしまう。
そういえばあのビデオ、貸し出されてないのに中身が行方不明だがどこへ消えたのだろうか。
あのビデオの一件と今回の事件が同一犯の犯行ということになれば、これは明らかなテロ行為である。
否、同一犯でなくともこの事件は十分テロと言えるだろう。
今はそんな話をしている時ではない。
一刻も早く処理をせねば店の信用に関わる。
とはいえあの強烈なニオイに絶える自信が……ん?
掃除道具を探っている時に私はある物を発見した。
トイレの芳香剤である。
普段はトイレのニオイだと嫌っていたあのニオイが、とても清々しい匂いに感じた。
私はこの芳香剤を防弾チョッキがわりとして持っていくことにした。
芳香剤の効き目はかなりのものであった。
2秒といられなかった現場にかなりの時間入っていられるようになった。
しかしそれも知れた時間ではある。
この限られた時間でまずは現場に残された犯人の物と思われる下着を回収する。
現場全体を水で洗い流す以外に手段は無いので、排水溝に詰まるであろう物を事前に回収する必要があったのだ。
が、奥まった所にあるため、この任務には危険を伴う。
しかし率先して回収に向かった勇者がいた。
第一発見者でもある8時入りのR氏(仮名)である。
彼の行動の迅速さは平時からのものであるが、この時はまた目にも止まらぬ速さだった。
おかげでようやく現場に水を流すことができる。
臭いものには蓋、というがこの水がいくらか蓋代わりになったのであろう。
大分臭さが治まったようだ。
そしてここから私とマネージャー二人の2時間に及ぶ戦いが始まったのであった。
地面に留まらず、壁にまで飛び散っていたゲル状……下痢状の物体は事件発生からかなり時間が経っていたのか、硬直が進んでいた。
水をかければ流れるだろうと思ったのは大間違いであったのだ。
前のバイト先では食べ物を掴んでいた道具で、食べられたモノを掴むとは思いもしなかった。(※似てるけど違う道具です)
一応の一区切りがついた頃、時刻は9時を回っていた。
9時入りのメンバーに生贄検分役として現場を見てもらうことに。
彼らはまだ臭うという。
(え?マジで?)
私はもうほとんど臭いは無いと思っていたのだ。
だが、彼らはドアを少し開けるなり苦笑いして鼻に手を当てる。
間違いない、ここはまだ臭い!
よもや自分の鼻が麻痺していようとは、この時まで思いもしなかった。
そして格闘を続けること数十分、水を掃き終えて仕上げにかかることに。
拭き掃除するために道具を調達してまた戻ってきた。
臭かった
鼻は先程まで紛れも無く麻痺していたらしい。
拭き掃除を終え、見た目は事件発生前よりも綺麗になったが臭いまでは取れず、今日は閉店まで大のほうは使用禁止の張り紙をしておこうということに。
そこでちょうどバイト終了時間がきたので道具を片付けて帰ることに。
片付け忘れてるものが無いか確認して帰ろうとすると、誰か入っていた
その連れが個室の前で私を見て笑う。
そして個室の中から連れに向けて話し掛ける声がした。
「どうする?今店員入ってきたら」
今まさに入ってきたのだが
連れの男はもう爆笑。
私は道具の置忘れが無いことを確認してそそくさとその場を後にした。
今回の事件では人間のタフさを思い知らされた。
あの惨状では恐らく衣服にも付着しただろうと思われるが、下着だけ捨てて帰った犯人。
器官を麻痺させてまで環境に順応しようとする人間の生命力。
そして何をどうしたらあそこまで飛び散らすことができるのかという人間の底知れぬ力。
貴重な体験であった。
勿論感謝はしない
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